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Blues Driver


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久々の投稿になります。巷ではLightloomのAIノイズ削減機能が優秀だと噂になっていますね。昔に撮ってノイズだらけで絵にならなかった写真が復活したなど喜びの声がいろいろなところであふれています。私といえば時代に逆行し、ノイズの美しさに魅せられています。最近私が取り組んでいるノイズとの戯れ:Blues Driverなる写真技法についてご紹介したいと思います。



第1章  一言で写真と言うけれど


SNSで写真に関する議論が炎上することが多々ありますが、写真に対する認識が一致していない中で議論だけが進んでいることが原因だと感じています。よくある議論としては…


・フラグシップ機を使うべき

・広角で寄りのポートレートは避けるべき

・重加工な写真は写真ではない

・黒潰れ、白飛びは下手な証拠


などでしょう。果たしてこれらの命題は真でしょうか?


『フラグシップ機を使うべき』


例えばアラーキーはPentaxのMZ-Sを使用しています。森山大道さんはCOOLPIX。もちろんフラグシップ機を使用しているプロの方もいます。


 ・森山大道さんのカメラ https://casabrutus.com/categories/art/185825


『広角で寄りのポートレートは避けるべき』


私は基本的には賛成ですが、これも(特に日本において)ポートレートという言葉の持つ曖昧さによって真とは断言できないでしょう。寄りによるデフォルメ効果を活かすことで被写体のキャラクターを引き立たせる作家はたくさんいます。



『重加工な写真は写真ではない』


白黒しか表現方法がなかった昔ならばいざ知らず、カラー表現も可能な現在において、モノクロも重加工とは言えるのではないでしょうか。誰もその色彩で世界を見ていません。モノクロ写真を賞賛し、彩度を上げた写真を彩度をあげていることだけを理由に非難するのは合理的ではないと思います。


『白飛び・黒潰れは下手な証拠』


なぜ白飛び・黒潰れしてはいけないのでしょうか?情報が失われるから?我々はしばしば主題を引き立てるために周囲をぼかしたりしています。なぜボケは許容され白飛びは拒絶されるのでしょうか?


これらのルールは先人の知恵から導かれたもので一定の敬意は払うべきですが、私たちは現代のアーティストとしてこれに縛られず新しい表現を模索していくべきだと思います。



第2章 しばしば忘れられがちな、しかし重要な観点


上記の議論で忘れられがちなのは、「作者はいったい何を表現したいのか?」という観点です。これを抜きに使用する機材、撮影技法、表現方法の優劣を語るのはナンセンスです。ストリートスナップには速写性が、ネイチャーには極限における機材性能が、心象風景には撮影時のボケや後処理でのカラーグレーディング耐性、広告写真ではトリミングに耐える解像度が求られます。SNSでは文字数の制限から発言者の意図する表現、背景、前提条件を十分に伝えることができないのでしばしば炎上していますが、私は「ふ〜ん」と読み飛ばしています。


心強いことに、最近の写真展を見ていると、従来の写真の枠にとらわれない展示をされている方が数多くいらっしゃいます。


 最近見た印象に残った展示としては

嶌原佑矢 「羽根木の森展」(https://uraluz.exblog.jp/29971150/)

 ・ポラロイド写真を水に浮かべて掬いっ撮った写真


市橋織江 「サマーアフターサマー」新宿北村 (https://www.kitamuracamera.jp/ja/event/photoexhibition2023_matsumotocity_orieichihashi

 ・写真と手書きイラストの融合


クスミエリカ 「3人展」より (https://gallery-scena.com/exhibition/202209-01/)

 ・自身で撮影した写真を表現意図に基づいて再構築(コラージュ)


その他、美大写真学部の方の展示も多くがストレートな写真ではなく、合成、コラージュ、紙以外の媒体へのプリントなど様々な表現をされていました。


これらのものを”写真ではない”と感じる方もいらっしゃる方もいるかもしれません。しかし、私にとっては従来の写真が果たして”写真”だったかと考えると甚だ疑問なのです。


デジタル写真の撮って出しは果たして”写真”でしょうか?

 各社カメラに様々な機能を用意して写真の色味を変えられるようにしています。これらは加工された絵であるのは明らかですが、ノーマルなモードでさえ”画像処理エンジン”によってノイズ除去やシャープネス調整、肌色の表現などが加えられています。ストレートなRAW現像であっても自動である程度のノイズ除去とシャープネスがかかっています。


フィルム写真は”写真”でしょうか?

 ある程度の年齢の方ならば、フィルム写真は出す現像所によって大きく色味が異なることを体験しているでしょう。ご自身でネガをご覧になった方はわかりますが、ポジ反転しベースカラーの調整しても非常にコントラストの低い絵になります。これに対してどれだけコントラストをつけて焼き付けるかは現像者の恣意的な作業となります。


つまり、写真が真実を写すべきと言うのはデジタルでもフィルムでも幻想ではないかと思うのです。ステートメントで嘘をつくのは論外ですが、もっと自由に表現して良いというのが私の考えです。



第3章 私の立ち位置


私は現在「人と街の記憶」をテーマに撮影をしています。

これは、街や人を正確に記録するのではなく、そのときに感じた印象などの心の動きを表現しようとする個人的な活動です。写真を精密に、クリアに撮影すればするほど”事実の提示”となり感情の入り込む余地がなくなります。私にとって写真に必要なのは画像の精密さやクリアさよりも受け手のイマジネーションを刺激する曖昧さや一種の歪み・揺らぎのようなものが必要だと考え、その実現方法を模索していました。オールドレンズを使用したり、わざとピントを外したりカメラぶれを利用したりしたのは古くから私をフォローしていただいている方には周知のことと思います。そして今行き着いた撮影方法は今回紹介するBules Driverと名付けた技法です。



第4章 Blues Driver技法


Blues Driver技法は被写体を高感度で撮影して仕上げる技法です。このとき、カメラ内部ではレンズから得た微弱なデジタル信号をアンプで倍増することで画像と共に自然界のノイズ、カメラ内のノイズを拾い上げてイメージに焼き付けます。感覚的には微かな記憶を頼りに撮影時のイメージを思い出す過程を想起します。電気的にはクリーンな音色のギターをアンプで歪ませてBluesの音色を作り出す過程と似ています。適度に歪ませることで写真がBluesを歌い始めます。歪みのコントロールで様々な感情を表現できます。

Blues Driver はBOSS社が発売しているギター用のエフェクターの代表的な機種です(https://www.youtube.com/watch?v=cUaxSDYs_sg )。”真空管アンプを通したような暖かな歪み”と表現されます。この技法を表すのにちょうど良い名前だと思いました。


この技法には以下のような特徴があります。


1.作品として成立する感度は使用するカメラに依存する。

 無闇に高感度で撮影すると、ノイズが縞状に現れて作品が成立しなくなります。感度を下げるとつまらない普通の写真となります。使用するカメラのスイートスポットと表現の幅を研究しておく必要があります。


2.プリントしてこそ良さが伝わる

 ディスプレイは自発光ですが、印刷は反射光です。印刷されたノイズは点描画のように印刷面に輝きを与えます。また、ノイズは1ピクセル単位で発生していますのでSNSの画像では画像の大きさが圧縮されてノイズが意図しない大きさで表現されてしまいますし、JPEGにしただけで本来の画像とは変わってしまいます。本来の作品を味わうには、オリジナルデータのプリントが必要となります。


3.最終的に出力する用紙サイズによって、最適な解像度が異なる。  厳密に言えば、写真を鑑賞するときの距離ということになるのでしょう。実際に見る状況において1ピクセルの大きさが一定になるようにしないと作品にはなりません。ノイズが大きいと汚くなりますし、小さいと輝きを認識できないためです。これはかなり難しい条件で、最終的なアウトプットの大きさを意識してカメラを選択するということになります。この感覚は、35mmフィルムを使用するか中判フィルムを使用するかの違いと似ています。


4.フィルムの粒状性とは異なる。

 高感度ノイズはフィルムにおける粒状性とも、現像ツールによる粒状性の追加とも本質的に異なります。決してフィルムのシミュレートではないデジタルならではの表現となります。


 Blues Driver   :RGBそれぞれの色でランダムに発生するが、平均すると白。

 フィルムの粒状性:その場所における色を反映するがその大きさがばらつく。

 ツールの粒状性 :グレーの粒子がランダムに発生する。


このように、BluesDriver技法が従来の方法とは異なる独自の表現方法であると同時に、オリジナルデータのプリントであることに価値が生じるという特徴が従来のデジタル写真と一線を画すると思います。




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 m: moyo.


第5章 おわりに


 今までの議論で、このBlues Driver 技法が魅力的な表現方法であるとお伝えできたと思います。一方で、既にお気づきと思いますが、この撮影は非常に難易度が高く、私もチャレンジを始めて数ヶ月経ちますが、留まりは10%以下です。これで安定した作品が作れるようであれば”作家”ということになるのでしょう。まだまだ解決すべき課題が見えており、しかし解決する価値があると思います。早く展示で皆様にご覧いただけるようにならなばと思っております。


 
 
 

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